秋の夕暮れ、見上げればアーチと風呂屋の煙突──郷愁の奥町

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 ▲奥町のメインストリート。新旧織り混ざった素朴な風景がそこにはある。

10月17日。美濃白川東白川を訪れた翌日は、みるくさんと愛知県一宮市の奥町(おくちょう)にやって来た。少し前に萩原と祖父江を歩いたのだが、今回はその続編でもある。

この奥町は、その名の通り一宮市の中でもかなり奥の方にある小さな町で、地元の人には単なる郊外として認識されている。観光という言葉などとは程遠い、本当に平凡な住宅地だ。ところが、歴史だけは市内の他の地区に負けていない。昔から在郷町として人々が集まり、旧尾西市の起(おこし)や萩原とともに繊維業で栄えてきただけあって、素朴でレトロな街並みがあちこちに残っているのだ。
奥町の市街地は、名鉄奥町駅の北側の貴船神明社を中心とする東奥町と、木曽川の堤防に近い若宮神明社を中心とする西奥町に分かれるという。まずは東奥町から歩いてみることにした。

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 ▲奥町駅前を南北に縦断する商店街、通称「貴船町」のあたりで。

メインストリートであるこの商店街は、北から順に大切町(おおぎりちょう)、貴船町、神明町、昭和町という通称地名が付いている。大切町のあたりで写真を撮りながら歩いていたら、通り沿いの床屋のご主人に声を掛けられた。商店街の写真を撮っていることを告げると、この西側の路地裏にもレトロな風景が多くてお勧めだと教えてくださった。普通の街の写真を撮っていると、変な目で見られることはあっても、こんなふうに教えてくれるのは滅多にないことなので嬉しい。

言われたとおりそちらに行ってみると、細かな路地が入り組んだ貴船神明社の周辺に出た。
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 ▲貴船神明社の西側の路地で。市内でもこのあたりは、ギザギザ屋根の機織り工場が特に多い。

庭園の美しい貴船神明社に参拝してから神社の南側に回ると、再び懐かしい雰囲気の商店街に出た。

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 ▲東奥町を東西に貫く商店街。こちらは通称栄町から西新町、東新町、貴船町を経て前並と続く。

今度はこの商店街を東に向かって歩くことにした。名鉄石刀(いわと)駅前から続くこの通りは、昔からの街道なのか、格子戸の古い建物がところどころに残っている。

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 ▲東西に貫く商店街で。昔ながらの丸形ポストがあちこちにさりげなく残っている。

奥町にはどういうわけか、上の写真に写っているようなシンプルなデザインのタウンアーチが至るところにある。お祭りのときに提灯をぶら下げるために使うのだろうか。「貴船町」や「神明町」などといった通称地名が書かれているのだが、上の写真のように文字が剥げて判読不能なのもある。

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 ▲商店街から一歩奥に入るとこんな路地が。奥に見える銭湯「奥の湯」さんは今も営業しているのだろうか。

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 ▲再び南北に縦断する商店街へ。左手には奥町のランドマーク(?)、奥町フードセンターが。

南北の商店街を歩いていると、奥町駅の少し手前の左側に小さな路地があった。気付かずに通り過ぎてしまいそうな目立たない路地だが、中に入ってみると…
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 ▲通り沿いの長屋には数軒の飲食店が並んでいた。いわゆる飲み屋横丁といった風情だ。

一宮市の中心部ならいざ知らず、奥町のような小さな街にもこんなところがあったとは。まるで名古屋の下町に迷い込んだようだ。時間が時間だけに人通りはまばらだが、夜になれば賑やかになるのだろう。

商店街をさらに南へ進むと、名鉄尾西線の奥町駅にたどり着いた。
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 ▲奥町駅。かつては有人駅で、1914年の開業時以来の古い駅舎が残っていたが、2007年に簡素な無人駅に建て替えられてしまった。

名鉄尾西線の末端部にあたる通称「玉ノ井線」は、路線図で見るとわかるように、一宮駅から北西にちょろんと伸びたおまけのような路線だ。駅は一宮・西一宮・開明・奥町・玉ノ井の5つのみで、もちろん単線。他の路線との直通もなく、一宮-玉ノ井間を一日中ピストン運転するだけの単純な運行形態だ。
しかし、沿線は名古屋のベッドタウンとして人口が増えており、この奥町駅も尾西線の中では一宮、津島、佐屋に次いで4番目に利用者の多い駅だ。朝は玉ノ井駅を出た時点で4両編成の列車の座席が全て埋まり、奥町・開明の2駅でつり革がほとんど埋まるほどの混雑ぶりだ。

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 ▲奥町駅から西に伸びる通り。一宮からの列車が到着したばかりで、駅前はとても賑やかだ。

この通りを西に進むと、南町から旭町三丁目を経て、西奥町の方まで続いている。
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 ▲南町のあたりで。商店は少ないが、格子戸の町家や大きな蔵のあるお屋敷が残っている。

この通りを途中で斜め右に曲がると、西奥町のメインストリートである若宮神明社の参道に出る。昔は主要な道路だったのだろうか、交通量が少ない割にやたらと道幅が広い。

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 ▲旭町二・一丁目から仲町・宮町・若宮町にかけて伸びる、若宮神明社の参道
そろそろ日が陰ってきた。光量が少なく写真撮影には不利だが、この街にはこの空の色が似合うと思った。普段は邪魔としか思わない頭上の電線のごちゃごちゃも、この街では良いアクセントになっている。いつもは気ぜわしい夕方も、今日は不思議と心が穏やかだ。

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 ▲終点の若宮神明社に近づいてきた。このあたりは奥町の中でも特にアーチが多く、450mほどの区間に「旭町二丁目」、「旭町1丁目」、「仲町」、「若宮町」、「宮町」の5つのアーチがある。これに加え、若宮神明社の鳥居も2ヶ所あるので、都合7つの門をくぐることになる。

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 ▲若宮神明社のすぐ南側の通り。神社の裏はもう木曽川の堤防だ。

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 ▲最後に、木曽川の堤防で夕日を眺めつつひと休み。川の対岸は岐阜県の羽島市だ。

これで奥町の街歩きは終わり。普段は通り過ぎるだけの地元の街に、ちょっとした再発見をした一日だった。

この後、ちょっと足を伸ばして、行きつけの韓国料理店「明洞」へ。一宮市の中心部にほど近い牛野通りにあるこのお店、休日には予約でいっぱいになる有名店だ。石焼ピビンパなどの韓国料理が食べられる焼肉店は多いが、純粋な韓国料理の専門店はこのあたりでは珍しい。

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 ▲熱々のプルコギと石焼ピビンパ。ごちそうさまでした。



明洞(ミョンドン)
愛知県一宮市牛野通3丁目26
TEL 0586-25-0151





◆おまけ
奥町にあるアーチの一覧を以下に掲載しておきます(クリックすると地図を表示します)。どれもシンプルなデザインですが、これだけの数があるのは珍しいのでは?
まだまだ他にもある可能性はあるので、地元の方などご存じの方がいらっしゃいましたらコメント等で教えていただけると嬉しいです。
 ・南「一宮市奥町」・北「神明町」 ※南北で書かれている文字が異なる。
 ・「一宮市奥町 貴船町」
 ・判読不能(「学童」「○○」「横断」?)
 ・「三」「出」
 ・「栄町」
 ・「旭」「町」「三」「丁」「目」
 ・「内」「込」「二」「交」「通」「安」「全」
 ・「内」「込」「一」「交」「通」「安」「全」
 ・「旭町二丁目」
 ・「旭町1丁目」 ※他のアーチよりも新しそう
 ・「仲」「町」
 ・「若宮町」
 ・「宮町」
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Comment

おお、これは素晴らしいアーチ情報!さすがに網羅していないのでこんど撮りに行ってきます。
しかし奥町の古びた風情には西日がよく似合いますね…。

>まささん

ここまでアーチだらけの地域も稀ですからね。上の一覧以外にもまだあるかもしれませんが…。
ぜひ「タウンアーチの先へ」で取り上げてください!

こんにちは、奥町民です。
今は奥町を出てますが、偶然この記事を見つけて、懐かしくて見入ってしまいました。久しぶりに奥町に帰りたくなりますね。
ちなみに僕が知る限りでは、まだ「野方」のアーチが存在します。よければ探してみては如何でしょうか

>ハワイさん

初めまして。コメントありがとうございます。
故郷が奥町なんですね。平凡そうに見えてレトロな魅力たっぷりの奥町、私も好きですよ。
「野方」のアーチ、先日通りがかった際に見つけました。情報ありがとうございます。大体このあたりですね↓
http://www.mapion.co.jp/m/35.3268669444444_136.755671111111_9/

はじめまして

一宮市民です。
もと関西人です。
近所の韓国料理屋の【明洞】を
検索中に辿り着きました。

あまりに心に残る日記でしたので
コメントせずにいられませんでした。

良い町に住んでいる事をあらためて
実感させていただける記事でした。
韓国料理をすっかり忘れるほどに
写真もステキで見入ってしまいました。

>エコさん

コメントありがとうございます。
私も一宮市民ですが、中心部に住んでいるとなかなか奥や萩原に足を延ばす機会がないものです。
しかし、じっくり歩いてみるとなかなか良いところがあるものですよね。
あ、もちろん「明洞」さんも自信を持ってオススメします。土日は混むので予約必須ですよ。

こんにちは。はじめまして。生まれて初めて「奥町 歴史」で検索していましたら、こちらのブログにたどり着きました。一枚目の画像から、私の家から歩いて5分くらいのものであり、全ての画像が記憶にある風景でございます。


しかしながらこのように別の方に撮っていただき文章化することで、別のヒトの街みたいな、非日常を感じさせていただきました。知らない街を拝見させていただいてる感があります(笑)


ありがとうございます。心より感謝申し上げます。

ps 奥町の銭湯は確かもう営業されていないと思われるのですが・・間違いでしたらすみません。

コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。
地元の方に褒めていただけると本当に嬉しいです。
奥町は私の家からも近いのですが、じっくり歩いてみると、まるで遠くに旅行に来たような気分になります。それだけ魅力的な街ということなんでしょうね。
銭湯はどこの街でも廃業が相次いでいますね。残念ですが、これも時代の流れなのでしょう。
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