釜山 その3~波乱続きの一日の終わり

(前回からの続き)

チャガルチ駅から地下鉄1号線で凡一洞(ポミルドン)駅に向かった。
釜山の地下鉄は、案内放送が韓国語の他に英語・日本語と中国語でも流れるので初心者にも優しい。また、車内放送では名古屋の地下鉄と同じように広告も入るようだが、こちらはCMソングのようなのが流れてなかなか本格的だ。車内では物売りのおじさんが手袋を売っていたが、寒いので飛ぶように売れていた。

15時35分、凡一洞駅に到着。改札を出るとき、ハナロカードやT-moneyなどの交通カードを利用する人には自動改札機が「カムサハムニダ(ありがとうございます)」とか「ファンスンイムニダ(乗り継ぎです)」とか言ってくれるが、切符の人には何も言ってくれないのでちょっと寂しい。

凡一洞駅の周辺はごく普通の都会の風景で、広い通り沿いに現代百貨店がそびえ立っていたが、一歩奥に入ると昔ながらの街並みが残っていた。
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凡一洞の裏通り。奥に見える煙突には「김해탕(金海湯/キムヘタン)」と書いてある。銭湯のようだ。この周辺ではこんな銭湯の煙突をいくつか見かけた。韓国の銭湯はどんな感じなんだろう。

さて、この凡一洞にやって来たのは、70年代から90年代にかけての釜山を舞台とする映画「친구(チング)」のロケ地になったからだ。チャン・ドンゴンとユ・オソンが主演したこの映画は、当時の興行記録を全て塗り替え、「友へ チング」として日本でも公開された。全編にわたって釜山方言が使われているのが特徴で、韓国中で釜山ブーム・方言ブームを巻き起こしたそうだ。
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▲KORAIL京釜線の跨線橋(凡一洞クムル橋)と、その周辺の街並み。
ここは「チング」の名物シーン、高校生時代の主人公たちが映画館に向かって疾走するところで登場した。実際に来てみると何ということもない普通の風景だが、映画の中では見事にダイナミックなシーンとして表現されていた。
ついでに、陸橋の近くにある釜山凡川2洞郵便局にも立ち寄って1,000ウォン貯金

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▲クムル陸橋から北を眺めたところ。ちょうど貨物列車が通り過ぎて行った。
映画の中ではムグンファ号らしきものが通り過ぎて行ったが、時代背景を考慮し、背後の高層アパート群が入らないようにうまく撮影されていたようだ。

電気危険
▲クムル陸橋の上で。

映画の中で主人公たちが向かったのは、この陸橋から600mほど南に行ったところにある三一劇場(サミルククチャン)という映画館である。クムル陸橋から三一劇場にかけての中央路沿いは、市によって「チングの通り(친구의 거리)」と名付けられ、散策コースにもなっているのだが、これと言って特に何も無く、道路拡幅工事の真っ最中でなんだか殺伐とした雰囲気だった。
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▲さらに、三一劇場は道路の拡幅によって跡形も無くなっていた

気を取り直して、KORAIL京釜線の下を地下道でくぐり、次の目的地へ。

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国際ホテル。ここは「チング」の撮影スタッフらが泊まっていたホテルで、クライマックスシーン(ネタバレになるので詳述は避けます)が撮影されたところでもある。
このホテルの横には東釜山郵便局というのがあったので、ここでこの日最後の貯金をした。ちなみに韓国の郵便局は9時から16時半まで貯金可能だ。

というわけで時刻はもう16時半過ぎ。南浦洞に並ぶもう一つの繁華街である西面も歩いてみたかったが、さすがにもう日が暮れそうだ。時間を有効に使い、なおかつ西面の景色も見てみたかったので、タクシーに乗ることにした。
国際ホテル前から乗ったタクシーは、凡一洞駅前から凡一路・中央路を北上し、西面の中心地であるロータリーに出た。大通り沿いから眺めただけなのでよく分からないが、やはり賑やかなところだ。運転手さんによると、今や南浦洞よりも西面の方が釜山の中心とのことだ。
西面を通り過ぎ、釜山市街の北部に位置する釜田(プジョン)駅前でタクシーを降りた。

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KORAIL釜田駅。釜山駅と比べると随分地味な印象だ。
釜田駅は東海南部線(蔚山・慶州・浦項方面)への始発駅だが、釜山駅と釜田駅を直接結ぶ列車は設定されていないので、両者間を移動する場合は地下鉄やタクシーに乗る必要がある。日本で例えるなら、東海道線から東北本線に乗り継ぐ人は、東京駅から上野駅まで地下鉄やタクシーで行ってください、と言っているようなものだ。釜山の人は不便だと感じないのだろうか?

この日は釜田駅には特に用は無かったので、そのまま駅前の散策に向かった。

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▲釜田駅前に広がる釜田市場(プジョンシジャン)。ここは観光客は滅多に来ない、本当に地元の人向けの市場だ。日本語や英語の看板も見当たらない。

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▲釜田市場のメインストリート、釜田繁栄路。ここには立派な全蓋式アーケードが設置されているが、アーケードのない脇道もレトロな雰囲気でなかなか良い。

しばらく散策してから、釜田市場バス停から86番南浦洞行きのバスに乗った。
この86番のバスは水晶山腹道路というところを走るのだが、Tabiperoさん以前ここに行かれ、景色が素晴らしかったのでぜひ乗ってみるべきだと推薦してくれたのだ。
バスは先ほど通った西面の繁華街の中を再び通り過ぎ、凡一洞にほど近いあたりからどんどん坂道を登って行き、気が付くといつの間にかかなりの標高のところを走っていた。

水晶2洞→水晶アパート付近で動画だとわかりにくいが、素晴らしい眺望だ。

バス停の名前を聞いていて思ったが、ソウルでは「マンション」という言葉を滅多に聞かないのに対し、釜山はアパートではなくマンションと名乗っているところも多い。また、ソウルなどでは百貨店は「百貨店(ペカジョム)」と名乗っているところがほとんどだが、釜山には「デパート(デパトゥ)」と名乗っているところも多い気がする。これも文化の違いだろうか。

瀛州三叉路→東亜アパート付近でどんどん日が陰っていき、徐々に街に明かりが灯り始めた。
最初はどうせなら明るいうちに乗りたかったとも思ったが、むしろ夕暮れどきの絶妙な頃合いに乗れたのがよかった。見知らぬ土地の夕暮れというのはどうしてこうも切ないのだろうか。

しばらく走ると下り坂となり、徐々に南浦洞の繁華街に近付いてきた。南浦洞の光復路は今ごろイルミネーションが綺麗だろう。このまま乗っていけば中央洞を経て南浦洞の光復路の前まで行けるが、疲れていたし、かなり寒くなってきたので、釜山郵便局にほど近い白山記念館というバス停で下車した。

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▲乗ってきた86番のバス。

ところで、韓国のバスには時刻表というものが存在せず、「配車間隔」だけが公表されている。時刻表があっても飛ばしまくるし、逆に渋滞も多いから、ほとんど意味がないのだろう。ちなみにこの86番の配車間隔は10分である。そして、バス停に突っ立っているだけではバスは停まってくれないので、乗りたいときは乗ることを全身で意思表示しなければならない。
さらに韓国では、同じ道路の同じ場所にあっても、上りと下りでバス停の名前が違うことがよくある。例えばこのバス停も、東行のバス停は「白山記念館」と名乗っているが、同じ道路の向かい側にある西行のバス停は「第一銀行前」となっている。また、例えば学校の前の道路にバス停がある場合、学校の近い側の歩道にあるバス停は「学校前(앞/アプ)」、道路を挟んで向かい側の歩道にあるバス停は「学校向かい側(건너/コンノ)」といちいち名前を変えていることが多い。乗り方は基本的に日本と同じだが、こうした些細な違いも興味深い。

そんなわけで、白山記念館バス停から歩いてホテル「東横イン釜山中央洞」に戻った。
さすがは東横イン、職員はやはり日本語がかなり流暢で、ロビーには日本語が入力可能なパソコンも置いてある。ただ、意外と日本人の客は少なく、韓国人の客がほとんどのようだった。シングルルームが充実したビジネスホテルというのが韓国にはほとんど存在しないので、ちょうどよいニッチなのかもしれない。
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▲客室の雰囲気も日本の東横インと全く同じだ。ユニットバスには日本語でしか説明が書かれていなかったが、韓国人の客は何とも思わないのだろうか?

…と、本来ならここで一日が終わるはずだった。
が、前々回の記事で書いたように、コリアレールパスをまだ引き換えていなかったのだ。
ということで、夕食も兼ねて再び釜山駅に行くことにした。ホテルから釜山駅までは送迎バスがあるのでそれを利用し、帰りはホテルに電話すれば迎えに来てくれるとのことだった。釜山駅までは1kmほどの距離なので、ものの5分ほどで到着した。

ところが、再びトラブルが襲いかかった。5日用のパスを予約したはずなのに、旅行会社の手違いとかで、なぜか3日用になっているらしいのだ。係員の方が何人も出てきて対応してくれたのだが、あいにく日本語がわかる人が一人もいないようで、いまいち状況が飲み込めない。
「ちょっと時間がかかりそうなので、こちらへ…」と駅務室内に案内され、応接テーブルのようなところでしばらく待つことになった。手持ちぶさたになりながらぼんやりしていたら、駅務課長の張さんという方がコーヒーを入れてくれた。テーブルに置かれたKORAIL全線の路線図を眺めながら、張さんとしばし雑談しながら待機した。

時刻はもう21時。だいぶお腹が空いてきた。「実は夕食がまだなんですよ」と言うと、張さんはたいそう驚いた様子で「それなら食堂に連れてってやる!全州ピビンパは好きか?」と言ってくださった。

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▲そんなわけで、フードコート内にある粉食店で全州ビビンパをごちそうになった。

今日はどこに行ってきたのか、と聞かれたので、長かった一日を振り返りながら話す。水晶山腹道路のバスに乗った話をしたら、「あんなバスをよく知っていたね、日本でも有名なのか?」と感心された。釜山でも知る人ぞ知るといった雰囲気の隠れた名所のようだ。
また、釜山駅前のロシア人街に行った話をしたら、「あそこは私も怖くて行けないよ」と苦笑しながらひそひそ声で言っていた。そんなに恐ろしいところだったとは。

ピビンパを食べ終わって駅務室に戻ると、ちょうどコリアレールパスが用意できたところだった。

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▲これがそのコリアレールパス。定期券のような厚手の磁気カードだ。
ちなみに韓国の一般列車は信用乗車制になっているので、改札というものが存在しない。なので、列車に乗りたい場合は窓口でこのパスを提示し、座席指定券を発行してもらうだけだ。立席でかまわないのならその必要もない。

ついでなので、翌朝乗る東海南部線のセマウル号の座席指定をしてもらった。東海南部線は海沿いの景色が綺麗だと聞いていたので、海側にしてほしいと頼んだが、駅員さんたちは「海側ってどっちだっけ…」と顔を見合わせていた。セマウル号・ムグンファ号の座席番号は、日本のJRのように1Aとか2Bのような表現ではなく、近鉄のように1、2、3…という通し番号になっているので、どれが海側でどれが山側なのか番号だけではわかりにくいのだ。結局、「人がいなかったら勝手に移ってもいいよ」ということになった。

最後に張さんが「ぜひいい旅をしてください。また釜山にいらしたときはぜひ立ち寄ってください、歓迎しますよ」と言って名刺をくださり、釜山駅を後にした。とんだハプニングだったが、良い思い出になった。

これで一件落着、と思い、ホテルに電話して送迎バスを呼ぼうとした。…が、肝心のホテルの電話番号を書いた紙をホテルに忘れて来てしまった。ここまで来るともう、本当に自分でも嫌になる。
仕方がないので、公衆電話から電話番号案内に掛けて調べることにした。韓国の番号案内は114番なのだが、勘違いして113番に掛けてしまった。後で知ったことなのだが、113番はなんとスパイ申告用の番号だったらしい。えらいところに間違い電話を掛けてしまったものだ。

そんなわけで何とか無事に送迎バスに乗り、ホテルに戻ってきた頃にはもう22時を過ぎていた。

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▲ホテルの客室から眺めた夜景。遠くに細かい明かりが点々と並んでいるのは影島だろうか。

というわけで、韓国旅行一日目の2009年12月18日がやっと終了。長い長い一日でした。
次回は東海南部線のセマウル号に乗ります。

(続く)
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